COLUMN / 「STYLE」 について


TAILOR CLASSIC




Corrrect Style & Timeless Quarity
Style
Column |  スタイルについて




わたしは、主にロンドンとパリと、ウイーンとローマのテーラーで服を頼んできました。これは、時系列で頼んできたというわけでなく、各都市毎にテーラーと継続的に付き合ってきたということです。服や靴だけでなく、その他、生活に必要なものも各都市毎に決めて継続的に付き合ってきました。

何故、そんなことをやってきたか、それは常にその都市の間を移動する生活をしてきたからで、事情によって一週間もたたないうちに別の都市へ移動したり、或いは何ヶ月もそこに居つくこともありました。

しかし、どこにいようが、自分のライフスタイルを崩したくはない、むしろライフスタイルをエレガントに向上させたい、そのためには、各都市ごとに各々をまかせられる専門家が、「必要」と云わないまでも、あった方が便利で、なにより愉しい毎日が送れます。



とにかく、好きな時に、好きな場所に出掛けるというのが身上で、気軽に移動し、体感を増やしていくことがなによりの「生きること」への栄養だと思っています。


とくに、20代から30代にいたる時代は、自分なりに生きていくことへのスタイルを模索していた時代で、友人も呆れるくらいヨーロッパ中を移動し続けました。なにしろ、サンピエトロに興味を持てば、毎週、毎月のように出掛け、ニューヨークの街が面白かったときは、やはり毎月出掛けるという具合でした。この「アスリート的な」移動生活から得たものは大きく、いまでも私のベーシックをつくってくれたものだと思っています。

(この辺の事情は、「百歳堂毘日乗」に記そうと思いますので、ご興味のある方はそちらを覗いてください。)


そのなかで、テーラーや靴屋、シャツ屋との付き合いも、出来上がったスーツやシャツという「物」だけでなく、その付き合いのなかで「男の生き方」や「人生の愉しみ方」といった面でも、いろいろ得たものが多いと実感しています。時代も違ったのでしょうが、これは、既製品をただ買っていたのでは得られなかった体験だと思います。


いま、書棚に残った若い時分に集めた本を読み返しているのですが、それと同じように、自分が作ってきた服も取り出して、見直しています。

それは、服を「読書」する「愉しみ」とも云えます。ビスポークの場合、一着のスーツにも、生地を選び、何回かの仮縫いを経る過程、或いはその時の自分の思いなど、様々な記憶が詰まっています。さらには、経験を積んだ今だからこそ、そのテーラーの「仕事」に気づくこともあります。


学生時代に注文し始めた頃の何も知識がなくて闇雲に形だけに拘っていた時代、そして美しい服への想いだけが突っ走っていた時代、それから経験を経て、ある程度の自分のスタイルで注文できるようになったと思える時代、、、書棚に並ぶ一冊づつ選んできた「書物」のように、クローゼットに並ぶ服は私の履歴を教えるアーカイブといえます。

幸いなことに、私は良いテーラーに恵まれています。

今日は、その中から、2着のダブルブレステッドのスーツをご紹介しましょう。








COLUMN  /   「STYLE」 について_b0151357_12354073.jpg「1974年製 サビルロー スーツ」


一着目は、学生時代から付き合ってきたサビルローのテーラーのものです。チケットを見ると、1974年5月28日に納品されています。

このテーラーは、イートン校とのつながりが深く、イートンにも支店があります。10代後半ぐらいからの付き合いです。これを、見ると、20代からほとんどスタイルが変わっていないですね、私は。
事実、直し続けて、7~8年前までは、現役でこのスーツを着ていました。ここら辺りが、昔の丁寧に仕立てられたビスポークスーツの底力ですね。

いまは、私の身体が一回り大きく(太った)なったので、直すのも限界かなと思い、次世代に譲ることにしました。34年経っていますが、スーツには全く問題がないです。



仕立ては、非常に立体的にできています。お手本のような、イングィッシュドレープです。特に胸周り、ウエスト、コートの裾にいたる構築は上手いです。これが、いまのサビルローと違うところです。

生地は時代もあって、しっかりウエイトのあるネイビーのピンストライプです。これもまた、お手本のような英国スーツ生地です。実は、、これにはエキストラトラウザーズをつくっていて、つまり2本、トラウザーズを仕立てています。一本は、典型的なイングリッシュカット、もう一本は、フレアートラウザーズ、つまり「パンタロン」です。時代はスウインギングロンドン真っ只中ですからね、それに、当時、パリにガールフレンドがいて、しょっちゅう通っていましたから、彼の地では当時「ミネ」というスタイルが全盛で、戦略的(?)に、ビスポークのフレアパンツを用意しようと思ったのです。


やっぱり、フレアーパンツを頼んだときは、テーラー氏は何も云わなかったけれど、いわゆる「眉をつりあげ」ました、まあ2本つくるということで、かつロンドンの「ジェンントルメンズクラブ」などでは決して着用しないこと、と約束させられて作ってもらいました。

フレアーパンツは、ノープリーツで非常にきれいなラインでした。
驚いたのは、片手間にそれらしく真似たというレベルどころか、パリでもどこのデザイナーのものかと始終聞かれたくらいですから、流行のデザイナーの域を超える美学をもっていたところです、

後で、店のお弟子さんに聞いたところ、このパンツをつくるために、テーラー氏はグラニー テイクス ア トリップとか当時でも、かなり通好みの店を自身でリサーチに出向いていたということでした。恐るべし、、、

そのことが影響(?)したのかどうか、しかし上着はかえって極めて英国的につくられています。


こういう、テーラーの気構えとか、顧客とテーラーとの丁々発止のやり取りがビスポークの醍醐味といえるところで、お互いにそれを愉しむ余裕と情熱が、この時代にはありました。










COLUMN  /   「STYLE」 について_b0151357_15545730.jpg「LONDON CUT EDWARDIAN SUITS」


もう一着は、極めて独特の姿をしています。
かなり広めに取ったしっかりした肩、ウエストもかなり絞っています、そして着丈の長い、独特のエドワーデイアンスタイル。これは、実際に着ると、かなりスタイリッシュです。


これも、サビルローテーラーですが、いわゆる「パーソナルテーラー」の作です。適当な言葉がないので、「パーソナルテーラー」と呼びましたが、通りに店があって不特定多数の客を相手にするのではなく、極く限られた客、つまり一見の客はお断りというテーラーです。



私の若い時分には、まだロンドンでも何人かいました。サビルローの店と違うのは、すべての「パーソナルテーラー」がそうではありませんが、このテーラーは採寸から裁断、縫い、仕上げまですべて一人でやっていました。いわゆる「丸縫い」で、分業を拒否していました。そして、お客の望みに徹底して付き合う、だから値段も、当時のサビルローの店の2倍、或いは2.5倍ぐらいは平気で取っていました。なぜならば、年間に縫える数は限定されますから。







COLUMN  /   「STYLE」 について_b0151357_12373477.jpg こうした人は、たいがいお爺さんで、もともとはサビルローのヘッド職人だったり、職人協会の会長とか要職にある人が多かったですね。


このテーラーは頑固な人でしたけれど、私はこの人から学んだことは非常にたくさんあります。英国の服のスタイルの、こと細かいデイテールにまで及ぶ広範な、そして実地経験をふまえた知識は、この人から引き継いだものが多いと思います。いまや、そういう知識を持っているテーラーはいないでしょう、またそれを書物から得ることも不可能でしょう。たいへんラッキーな出会いだったと思います。
六義のテーラーとしてのスタイル、姿勢はこの良き時代の「パーソナル テーラー」にあります。



まず、仕立てがその当時でも、サビルローとはレベルが違っていました。芯の作り方をはじめとして、1950年代以前の、英国テーラーの一番良い時代を守っていました。そして、スタイルについての知識ですね。「いまのテーラーは、何も知らない」と豪語するだけあって、驚愕する知識のアーカイブを持っていました。

私は、このテーラーで都合、6着のスーツをつくりましたが、本当はもっと付き合いたかったのです、しかし私が出会ったときの年齢もあり、どうしても「引退する」と潔く引退して田舎に引っ込んでしまいました。


ちなみに、この人は、伝説のダンデイとして知られるNeil Munro ("Bunny") Roger 、バニー・ロジャーの服を昔、手がけてもいました。バニー・ロジャーは、後年、ポール・スミスがその遺品を買って、自身のコレクションに取り入れたことで日本でも紹介されたので、ご存知の方もいらっしゃると思います。

私は、当時(80年代前半)、バニー・ロジャーのことなど知りませんでした。しかし、一度、出会っています。
それは、メイフェアの或るギャラリーの「プライベート ビュー」(上得意だけを呼んで開催前に行われる下見会、パーテイみたいなもの)のことで、会場でひときわ目立つ、異様にスタイリッシュなお爺さんが、後でわかったのですが、ロジャー氏でした。








COLUMN  /   「STYLE」 について_b0151357_1238164.jpgロジャー氏がそのとき着ていたスーツは、生地は極くクラッシックなダークなストライプでしたが、とにかく、その思い切り広く取られた肩、削り取られたウエスト、細いパンツ、とくに後ろ姿のフィットした逆三角形を描くとんでもなくスタイリッシュな姿には目を奪われました、そしてサイドベンツが異常に深いのです、腰の辺りまであったように思います、その深いベンツから時折覗く鮮烈な色の裏地。

ふと気が付くと、私と同じように彼の姿に見惚れている人がいました。エリック・クラプトンです。彼は、絵画をはじめビンテージーカー、競争馬の名立たるコレクターですからね。目と目があって、お互い無言で「すごいね」と目配せしたのを覚えています。
(エリック・クラプトンは、おもしろい動きを見せる人で、彼のコレクターとしての活動もそうですが、一癖あるセレブリテイーがメンバーに集まる「グルーチョ クラブ」というプライベートクラブの設立にも参加しています。いまもピカデリーの裏手にあるこのクラブ、ロンドンの小さなプライベートクラブ ブームの走りともいえるもので、料理がおいしいことでも有名です。)


その、印象が強烈で、それでこのテーラー氏で新しいスーツをつくるときロジャー氏のスタイルを参考にスケッチを描いて持っていったのです。

その時、テーラー氏が「ああ、それはサー・ロジャーだ。」と教えてくれたのです。そうして、私に合うようにアレンジして出来上がったのがこのスーツです。夏前だったので、非常にしなやかな、かすかにストライプが見えるモヘアで仕立ててあります。全体にエドワーデイアンの独特の匂いのあるバランスで、チケットポケットの位置など特徴的です。ただ、すべてこのスタイルで作ったわけではありません。(つづく)














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by tailorrikughi | 2008-08-15 15:39 | ■Column(New)
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