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The Collection / 6.「Cashmere」


TAILOR CLASSIC   




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「CASHMERE」


文字通り、「Cash」mereというぐらい、カシミアは高価です、カシミアは何故、高いのか、カシミアはどのように織られるのか、それについてはイヤというほど文献があるので、ここではそれは省きます、

問題は、優れたカシミアとそうでないカシミアがあるということです、

実は、年々、良いカシミアに出会うことは難しくなっています、
「カシミアとモヘアは昔の方が良かった」、古くからのテーラーさんは必ず懐かしげにため息をつきます、良いテーラーほど生地好きなのです、私が知っているテーラーのおじさんは、大昔のヴィクーニュアと、「経営者が変わる前」のウエインシールの何とかと言う綾織のカシミアを「非売品」として店に並べています、絶対に売らないのです、見せるだけ(!)、これは冗談ではなく本当の話です、その気持ち痛いほど分かります、売ってしまえば二度とお目にかかれない、良いカシミアはそれほど今と昔では質に開きがあります、加工技術は進んだのでしょうが、カシミアの質は難しくなり、それにもかかわらず値段は上がっていきます、良いものを知っているテーラーほど、それを苦々しく思っているものはいないでしょう、


優れたカシミアは、軽く、暖かいという機能だけでなく、男の生涯にわたってある種の「役割」を担ってくれます、

先ず、このカシミアで仕立てられたコートを着ていくだけで、シャンゼリゼ劇場の上にある某レストランのように扱いが格段に良くなるとか、或いは、同じ通りにある某高級ホテルのように、フロントのホテルマンが機械的に言葉尻につける「、、、sir」という発音が幾分思いやりを込めて発音されるようになるとか、、、そういった日常の変化を楽しめるだけでなく、やはり周囲の尊敬と羨望、そして嫉妬の混じった視線を集めることでしょう、被害も少々あります、とにかくやたらと触られること、とくに女性はカシミアには目がなく、本能的に手をのばしてきます、もちろん貴方としては、ここは鷹揚に目をつむるべきです、

では、そうではないカシミアでコートを仕立ててしまった場合、これは悲惨です、某高級ホテルのフロントマンは商売柄、こうした違いには結構、目が利きます、「高級」素材の安っぽいものほど品性を疑われやすいものはありません、底の浅い見栄っ張り、本当の上質を知らないエセ紳士、おぞましい言葉の数々が彼の頭の中を覗くと渦巻いています、むしろ良いツイードのコートでも仕立てた方が良かったぐらいです、

そういう危険を避けるために、優れたカシミアとそうでないものとを、どう判別するのか、
まず、高価なものを選ぶべきです、シンプルです、なぜなら良くないカシミアが高く売られていることはありますが、優れたカシミアが安く売られることはメッタにないからです、

値段以外にどうしてもご自分で判断できるようになりたいという方に、極上のものを見分ける基本的な方法をお教えするなら、触ってどの方向にもすべらかどうかを確かめることです、生地には「目」がありますから、通常はひとつの方向に対してすべらかなはずです、それが四方、どの方向にもしなやかで、すべらかならばそれはかなり質が良いといえます、よく目が詰まって織られていることと、ウエイトがあり肉厚であることは云うまでもありません、しかし、ここまでが言葉で説明できる限界です、本当に大切なのは、糸の良さとかタッチを感じ取ることです、そして良い品物を数多く見ることです、それにはいっぱい失敗を重ねなければなりません、、、そう、私のように。  ■  TAILOR CLASSIC   









b0151357_1136440.jpg英国製「ムーアハウス&ブルック  カシミア&チンチラ」 

いまはないムーアハウス&ブルックのビンテージのカシミア&チンチラです、これは、以前書いた同じムーアハウスのピュアキャメルヘアーと同様に、ショックを受けた一枚です、
迷ったのですが、もう残り少なくなったので、ここに書き残しておこうと思います、

クラッシックなコート地専門のミルが、良い糸に恵まれて、その実力を本気で出したらどんなものが出来上がるかという見本のような生地です、

先ず、余計な加工がないです、極めてタイトに織られたクラッシックなコート地の「正直な」織り方です、わざとらしい光沢をだすこともしていません。
しかし、それにもかかわらず、しなやかで、柔らかく、前述したようにどこを触っても、滑らかです、色もトップグレイでエレガントです、云いたいことは、これで全てです、つまり、これは言い切ってしまえる質のある稀な生地です、




b0151357_081286.jpg英国製「スパンピュアカシミア ロイアルカシミア」

コッパーゴールドに青が織り込まれた独特の色だしの(写真は色が現れていません、後日、取り直します)スパンカシミアです、
ヨークシャアの秘密の場所で、「今日は見せたいものがある」といわれて出てきたのが、このスパンカシミアです、耳には「Royal Pure Cashmere」と金文字で書かれていました、大層な名前です、比較的、新しい生地です、

ただ、触ってみて、その名前を許そうと思いました、

スパンカシミア自体には、正直、それほど興味がありません、色々見ましたが、確かにタッチは良いのですが、わざわざカシミアにする必要があるのかなとも思います、

ただ、これだけはタッチが群を抜いていました、文字通り手の中で溶けていくようなタッチ、しかも、極めてタイトに織られ、ウエイトも或る程度あります、光沢がありますが、それは糸の良さとタイトに織られたことによる光沢です、わざとらしい、加工した光沢ではありません、

「糸(原毛)が違う、、」二人同時に呟きました、これはイタリア製などと明らかに違う、本物の繊維の長い、非常に上質なカシミアの毛なのです、

通常カシミアは、その産毛だけをとりますから繊維の長さは当然、短くなります、紡毛生地です、ですから繊維の長いウールよりも弱くなります、ただ稀少な繊維の長い産毛を使ったのがウーステッドカシミア=スパンカシミア、梳毛カシミアです、
ただ、それもピンキリで、ごまかしも多く、「わざわざカシミアにする必要があるのか」というのは、しっかりしたスーパー150‘s&カシミアで充分賄える質のものが多いし、その方がまだ丈夫だと思えるからです、つまり名だけの贅沢なように思えるからです、

ただ、これは違う次元の質があります、

しかし、これでスーツまで仕立てる必要はないように思います、ジャケットで充分で、そこで止めておくのが良いと思います、








b0151357_23553355.jpg英国製「ピュアカシミア ハウンドツース」(1970年代)

これは、デザインが好ましいと思います、少しだけ大柄のベージュと黒のハウンドツースです、(これも写真では色がよくでていません、写真はクローズアップでとっているので見た感じが大柄ですが、実物はそれほどでもありません)

ウインザー公が、こういうハウンドツースで、ピークドラペル、シングルのラグランコートをキュナードラインの船上で着ている写真が残っています、少しAラインのその姿はリラックスしたなかにも味のある贅沢さが伝わってきます、

クラッシックな英国のカシミアの織りです、私は、変に光沢をつけたカシミアはどうも好きになれません、これは「正直な」織りで、カシミアの味わいと良さがでています、







b0151357_220226.jpg英国製「ムーアハウス&ブルック  ピュアカシミア ダークキャメル」
 
いかにも、クラッシックなカシミアコートの王道をいくダークキャメルのムーアハウスです、

英国のクラッシックなカシミアコート地は、わざとらしい光沢をつけず、むしろ織りをタイトに、ウエイトのある、触ったときにその質の違いを雄弁に語るものを本来としています、

ですから、イタリア製のように見た目でテカテカしているものを期待すると肩すかしをくいます、
しかし、このクラッシックカシミアは一生使うと、その差がでてくるのです、テカテカしたものは、折り目がなかなか消えず、場合によってはよく擦れる部分は白く光沢が消える場合もあります、ひどいものは、長年で毛玉をつくったりします、

カシミアのコートは「ロングライフ」だと、良いテーラーは言います、カシミアだけでなく、コートは生涯着続ける、ということを前提としたコート地を織っていたのが、ムーアハウスです、「地のし」をしたテーラーが云っていました、これは確かに目が詰まっている、縮みがないと、








b0151357_16274111.jpgスコットランド製「六義スペシャルウーブン ピュアカシミア フェアアイズル」

或る朝、鏡の前で身支度をしていて、ウエストコートを羽織ろうとした時、ふと良いアイデアがひらめきました、

フェアアイズル柄のスリップオーバー(ニットベスト)というのはあるけれど、フェアアイズル柄の生地というのはないぞ、と、それでスーツを仕立てるのは少しばかり(かなり)派手だけど、ラペル付きのウエストコートを仕立てさせたらニットよりスリークで、ちょっとしたものになるのではないかと、、、イメージはすでに頭のなかに浮かんでいます、さらに考えながらキッチンに行って、もう一杯コーヒを飲んで、、しかも上等のカシミアならどうだ、、、

思い立ったら吉日、私はその日のうちにスコットランドの或るミルに連絡をとり、週明けのアポイントメントを取りました、

このミルは、いわば英国のタータンの総本山、何世紀にもわたって、由緒正しきタータンはここで織られたといっても過言ではありません、タータンそのものも、各家に応じて何千という(いったい何種類あるのか)種類があるのはもちろん、ダンシングタータン、アンシエントタータンとそのバリエーションも数知れません、そして、それらは、ひとつひとつ名前がつけられ、このミルのアーカイブとして残っているのです、こうなると、もう「博物館」です、

それはともかく、何故、私がこのミルに白羽の矢を立てたかというと、このミルでは「パーソナル タータン」を創ってくれる事を知っていたからです、つまり、伝来のタータンを持たない人でも、オリジナルの、その人だけのタータンを創作してくれるのです、

私の友人も、そのひとりで、彼の場合はちょっと不純で、買ったばかりのクルーザー(巨大です)の内装を世界唯一のものにする(つまり、女の子、或いは友人に自慢したい)がために、「パーソナル タータン」を思いついたのです、彼は、カーテン、ソファは云うに及ばず、ルームシューズ、ナイトガウンまでを、その「自分の」タータン模様で埋め尽くしてご満悦です、しかし、彼は純粋のギリシア人です、タータンにも国籍は今や関係ないようです、


この「パーソナル タータン」、本人の色などの好みは一応、聞くらしいのですが、製作過程において厳密にそのアーカイブと照らし合わせ、絶対にデザインがかぶらないように考慮されているとか、さすがはタータンの総本山、そして、新たに生まれた、そのタータンには本人の名が付けられ「新種」としてアーカイブに保存されるといいます、



私としては、タータンという色も豊富な生地を織れるのだから、フェアアイズルもできるだろうと思いついたわけです、

しかし、先染めの何色ものカシミアの糸を用意することは難しいらしく、また、私の要望もかなり無茶に厳しく、とりあえずホワイトカシミアと生成りのカシミアをベースにして織ってみようということになりました、

柄の作成にあたっては、独自のフェアアイズル柄をと、このミルの有望なデザイナー、ロイヤル・カレッジ・オブ・アーツでテキスタイルを学んだという若い女性が、私のメモをもとにデザインをしてくれました、一度、彼女の家にお茶に招いてもらいましたが、部屋には北欧の家具を思わせる木製の手織り織機があり、いまも時間が空いたときはアーテイな作品を織るのが楽しみとか、こうした人がいる英国のテキスタイル界は奥が深いなと思いました、

できあがったフェアアイズルカシミアは、意外(?)に糸も良く密に織られていて、タッチもすべらかで、何より、その柄がふくよかなイメージをもっています、生成りとベージュにしたのも、かえってイヤ味がなくて成功でした、

オッドベストとしても、ネイビーをはじめどんなものがきても、しっくり納まります、しかも優しく暖かい、いかにもスコットランドの大地を思わせる優しいカシミアができました、おまけに良い思い出もつくれました、





b0151357_2020203.jpgスコットランド製「ピュアカシミア 変わりハウンドツース」

非常に綺麗な生地です、それは、かなりタイトに織られているせいだと思います、
紡毛生地ですから、もう少し、もたっとするものなのですが、こうした生地の中では表面のすべらかさが際立っています、一見、糸の繊維が長いスパンカシミアのように思わせます

柄は、スモーキーなハウンドツースの変わり柄です、いかにも英国のパターンですが、色あわせがシックで、どこか「パリの英国好み」を匂わせます、これで、クラッシックな30年代のイングリッシュドレープの三つ揃いを仕立ててみたらどうかなと夢想します、デイテールはカントリーテイストで、シャツを地の薄いグレーで、靴をハウンドツースのグレーの濃い方に合わせたデイアスキンで仕立てて、カシミアのイエローのタイを絞める、少し贅沢な組み合わせで、シックなパリの英国好みのカントリースタイルを愉しんでみる、、、




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by tailorrikughi | 2008-09-28 11:34 | 6.「Cashmere」