The Collection / 5. Vintage Design

TAILOR CLASSIC   



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「 VINTAGE DESIGN / 好事家のための一着」


ここで、ご紹介するのは上級者のための一着です。

といっても、スーパー200`sやパシュミナといったものではありません、

良い布をハンテイングしていくと、時に範疇を越えた「変わった織りや柄」に出会うことがあります、マーケテイングの世の中になって、番手の高さだけを売りにしているような今では考えられませんが、良い時代のミルには創造力がありました、

私は、基本的にはクラッシックをつき詰めたいのですが、質の良い、忘れがたいものに限って、そうしたチャレンジングな生地をコレクションしています。







The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_491168.jpg英国製 「ブルーピンストライプ vintage super 80`s」(1960年代~70年代)

60年代、70年代のスーパー70‘s、80`sというのは、いまでいうスーパー150‘sなどに匹敵する高級細番手生地でした。

違うのは、当時は今のような高速織機はありませんから、従来の織機で織られていたということです、そこに良さと意味があるように思います、
いまではスーパー100‘sなど当たり前となっていますが、その当時を知る日本のテーラー氏がいうには、世の中にはこんな生地もあるのかと驚いたといいます。

こうした、当時のスーパー70‘s、80‘s(80‘sまでで、100‘sというのは見かけませんでした)が、それ以降の高番手の生地へ向かうきっかけとなったのかどうかは定かではありませんが、生地としてみると、タイトに織られていて、腰とハリがあるのに加えて、確かにしなやかさと光沢があり、他のものと違うように思えます、

デザインも「仕事着(ビジネス)」という範疇を越えた、「趣味性」のあるデザインのものが多くみられます、つまり、趣味のあるスーツを着る余裕のある層を対象とした、やはり高級生地だったのでしょう、

例えば、このピンストライプ、通常のものよりピンの直径が少し大振りで、存在感があります、ピンストライプの色も綺麗なスカイブルーです、このスカイブルーが効いています、

このピンストライプは、ダブルに仕立てるのも良いのですが、納まりすぎるようにも思えます、むしろ優雅ななで肩のクラッシックな2ボタンのシングル三つ揃い、などにしたとき独特の輝きを放つように思います、






The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_12581217.jpg英国製「ビンテージ スーパー70‘s ウーステイッド」(wooven by Yates 1960`s)

これも、ビンテージの高級細番手生地で、「Yates」というミルによって織られたsuper70`sです、

デザインンが変わっていて、ところどころ消え入りそうな「格子柄」になっています、私はこれを「チョーク格子」と勝手に呼んでいます、消え入りそうなというのが味わいです、チョークと同様に、品の良い、育ちの良さを感じさせる柄です、

生地を探していくと、ある種自分自身の判断基準が生まれてきます、私はそれを「表情が良い」と言っていますが、それは単なるデザインではなく、むしろ、糸の良さ、織りの正直さから生まれる、「質」といえます、言葉で正しく伝えるのは難しいのですが、「良い生地」というのがあるのです、それは、長年着ていて飽きないもの、むしろ愛着を感じ始めるものというのが判断のポイントかもしれません。

いまの生地に何故惹かれないのかと考えると、この「良い生地」という基準が番手とか柔らかいとか、軽いとか、底が「浅い」ように思うのです、

「良い生地」は、番手が高くなくとも光沢としなやかさをもった「良い糸」のものがあり、柔らかさ、しなやかさというのは、単にフワフワしていることではありません、

この生地も、そうした「表情」をもっています、しなやかですが、しっかりタイトに織られ、当時の高級細番手としての光沢があって、他とは違います、

そして、着続けることでそれが生きてくると思います。大切で、愛しい一着になっていく、それが、今の生地と違うところです。






The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_474690.jpg英国製 「変わりカントリープレイド 」(1960年代~70年代)

ウインザー公の今に残る写真、或いは公の遺品を集めたサザビーズのオークションカタログを探ってみると、プレイドスーツでも、クラッシックなチェックではなくてドットで織られた、少しモダンなプレイドのものをしばしば着ていることに気づきます、

それはクラッシックな英国風にみえて、良く見るとアメリカ風ともいえるモダンなデザインで、これを公は、カントリースーツに仕立てて、ニットヴェストと組み合わせたりしています、

趣深い、いかにも公らしいプレイドですが、何故か70年代以降、このデザインは消えていきます、そして今は全く見ることがありません、

当時は、公だけでなく好事家の間でも好まれたらしく、ダンデイたちが着ているのを古い写真で見かけたりします、

このデザインを得意としていたのが「Peter Levell」というミルです、(「Classic Tailoring」でご紹介した、ダブル4ボタンのプレイドスーツも、このミルのビンテージ生地で仕立てられています。)このミルの生地も、久しく見ていません、

味わい深いブラック&ホワイトのこのプレイドは、シングル2ボタンのカントリースーツに仕立てて、ウインザー公のようにニットヴェスト(レモンイエローとか)を合わせて、少し気崩した優雅さを秋に愉しむのも一興だと思います。かなりコレクタブルな一着になるのではないでしょうか。







The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_4123046.jpg英国製 「ドミュール CASHALUX」(1950年代~60年代)

これは、50年代の古い英国製ドミュールです、気になるのは生地の「耳」にある「CASHALUX」という文字です、生地の質の高さを示す「星」もついています、

CASHALUXとうのは、ウーステッドとカシミアを混ぜたという意味で、今でこそ当たり前になっていますが、これは、その先がけとなった生地だそうです、いったい、何%のカシミアが混ざっているのかは、正確には分かりません。
問題は、このデザインです、最初、広げてみたとき、地味ともいえるし、古臭いともいえるし、「CASHALUX」という文字には魅かれたのですが、正直にいって質はともかく、このデザインをどう捉えるかに迷いました、

英国のカントリーデザインの生地には、ラバットグリーンとか微かに色が混じっているものなど渋いものがありますが、これはそれとは少し違います、
The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_1843721.jpg結局、買って帰って、机の上に広げて観察してみると、重さは300gぐらいで思ったより軽め、タッチは、いわばスパンカシミアを「この野郎」というぐらい古い低速織機でタイトに織った感じ、非常になめらかで、タッチもしなやかなくせに、手にタイトに織られた「硬さ」が残る、質としては、とても面白い、触ったことがないもので、それは気に入りました。

問題のデザインは、良く見るとハ刺しのように、朱の短い織りが入り、興味深いのは、角度でシャドウストライプのように、ラインが現れることです、(写真の左端辺りにそれが少し見えます)
「星」をつけただけあって、思った以上に凝った生地です、

鏡に向かって身体に布を当ててみると、赤のハ刺しが意外に効いていて、かつ、シャドウのストライプが動きに応じて現れて、思った以上に存在感があります、

ここで、やはり思うのは織機の違いとか「正直な」織りというものです、最初にご紹介した昔の細番手のもの、そしてこのカシミア、どちらも古い織機でタイトに織られたというのが効いています、こういうものを、私たちの時代は失ったということです、

さて、この生地で何を仕立てるか、胸フラップと箱ポケットがついた凝ったカントリージャケット、いっそ、ブッシュジャケットかサファリ風のハンテイングコート、、、正直、まだ、これだというのが浮かんでいません、





The Collection /  5.  Vintage Design_b0151357_2030048.jpg日本製 「変わりストライプ」(1970年代?)


六義では珍しい日本製の生地です。いまはない藤井毛織という日本のミルのものです。不思議な経緯で手にいれたもので、生地も変わっています、多分70年代のものだと思います。

柄もそうですが、「耳」にある文字に惹かれました、「Fujii Keori -James Drummond & Sons Ltd.」とダブルネームになっていることと、写真では隠れていますが、「Airship Queenland Vivo」という表記です。


James Drummond & Sons Ltd.というのは、英国ヨークシャアのブラッドフォードのミルで、経営権はどこかに移ったでしょうが、いまもあると思います。19世紀末から続く、割りと古いミルだと記憶しています。
ダブルネームというのが、どういう意味だったのかは定かでありません、Made in Japanとなっているので、デザイン供給だったのかもしれません、
このダブルネームの生地は、当時、ある程度、出回っていたようです、「Airship Queenland Vivo」というのは不明です、単にQueenlandと表記されているものもありました、多分Airshipというのは、その中でも高級ラインを意味するようです、Vivoというのはラテン語(スペイン語)で「生き生きとした」という意味ですが、ここで何を意味するのかは不明です、

藤井毛織というミルは、タスマニアンウールとかカシミアで名を売ったミルです、日本のミルですから、既製服への供給など、その製品は玉石混交です、当時、このミルの最高級のカシミアと言われたものも見ましたが、確かに悪くはありませんでした、私はカシミアには厳しいので、「最高」とは一概に言えませんが、

多分、それは日本のミルの弱点だと思いますが、最高級のタスマニアンウールを買って、それで織っても最高級にしないのですね、イギリスのミルなら、おそらく、迷わず耐久性とか一般性を無視して贅沢な織りとデザインにしてしまうのですが、そこに日本ならではの中庸の精神が働いて、最高級の糸だけど一般の受けも狙った織りにしてしまうのです、

さて、そこでこの生地です、質が良いです、しかも保存状態が極めて良く、いま出荷されたと聞いても納得できる範囲です、
先ず、確かに糸が良い、織りもタイトです、そしてタッチがしなやかです、
なにより、この一見変わった柄が、布を身体にあてて鏡を覗いてみると、思いのほか、品良く納まります、エレガントであるとさえ云えます、配色が上手いと思います、

バブル全盛の時には、この藤井毛織をはじめ日本のミルも面白いものを織っていました、惜しむらくは、小さい規模で良いから一本筋が通ったものを織り続けるという気構えのところが出なかったことです、言うは易しで、色々な事情があるのだと思いますが、、、











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by tailorrikughi | 2008-09-25 03:51 | 5.Vintage Design
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