Column / 「生涯の友人」としてのスーツ





TAILOR CLASSIC   
21st Century
Elegancy


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チャーチルがいったい何着のスーツを持っていたのかは知らないが、
写真に姿をみせるチャーチルは、
いつも、充分に着込んだ風情の背広を身に纏っている、
そのスーツは、幾分「くたびれた」とも表現できる、


しかし、よく見るとそれはなかなか味のある良いギャバジンで仕立てられていたり、
愛用していたチョークストライプのスーツのラペルも、
あの特殊な体型をチャーミングに見せる
絶妙の幅に仕立てられている、
いつも、水玉の蝶タイを少し無造作に結んでいるのもクラシックでこの人らしい、


1950年代に、ハロルド・ニコルソンはヴァニテイーフェアに、
チャーチルは、英国で最も興味深い男だ、
いや考えるとそれ以上のものだ、
それは、ひとつの「事象」、ひとつの「謎」といえる、
と、書き残している、

同時代人にとっては、それぐらいの「存在感」が、
チャーチルという男にはあったということだ、
いつも、やや意地汚く葉巻を咥えて離さないこの男は、
「信念」に力強く忠実であったことで、歴史に名を残し、
スタイルがあった、

無造作を気取っていたが、
スーツに合わせるシャツは、
いつも決まった上質の白いローン地でしか、
シャツ屋につくらせなかった、




b0151357_546589.jpgアメリカ人初のノーベル賞作家となった、
シンクレア・ルイスはいつも端正な姿で写真に納まっている、


ピュリッツアー賞をとった「Main Street」や、
ウイリアム・ワイラーが監督した「孔雀夫人」をはじめ、
その作品の多くが映画化されて、
映画人との付き合いもあっただろうが、

シンクレア・ルイスの装いには、映画人の華やかさには雑(ま)じらない、
純粋なクラシックさがあった、

それは、洗練されてもいるから、
ルイスだけのポートレイトを見ていると気が付かないが、
大勢に囲まれると、
ルイスだけが「硬質」な独自のものであることが分かる、







b0151357_6163488.jpg我がアイドルのひとり、T.S.エリオットは、
いつも決まって黒っぽいスーツに黒っぽいタイを結んでいる、

実際、いつも同じスーツを着ているようにも見える、

しかし、詩人の「無頓着」さに騙されてはいけない、

天空に煌く星座の配列のように、
永遠に見飽きることのない言葉の純粋配列に腐心する詩人は、
パズルのように複雑に絡んだ美意識を隠し持っている、


そのスーツは、何かの警句のように無駄な飾りはなく、古典的で、
同じく無駄な肉のない痩躯な詩人の身体により沿うように、
意外にシャープに仕立てられている、

とくに、袖口は思いのほか細められ、
煙草とペンを握る
詩人の白く、美しく伸びた指を際立たせる、







b0151357_5505076.jpg劇作家ユージン・オニールのフロンテイアとしての、
激しく、苦悶するまでも格闘したその真摯な一生を思い浮かべると、

その、いつも律義にスーツを着こなした姿は意外に思えもする、

英国とは違う、いかにもアメリカの匂いがするそれらのスーツは、
しかし、クラシックの文法に則(のっと)ってしっかりと仕立てられていて、
オニールによくフィットしている、


「ユーモア」のオブラートで観客へ媚を売ることもなく、
徹底して、心を抉るような「ドラマ」で真実を切り開いて晒しだす
オニールの作品と同様、その人生も、
ノーベル賞をはじめ幾多の輝かしい評価の裏で、
タフなドラマツルギーで進行していく、

いまに残るオニールの姿でいつも忘れ難く、こびり付いてくるのは、
そのオニールの眼の表情だ、






その眼の奥底に見え隠れする、しかし今となっては、推し量るしかないオニールの精神と心には、メイフェアのスノッブな喧騒を思わせる英国の背広ではなく、新大陸のフロンテイアの歴史を繋ぐ、アメリカの匂いがふさわしかった、


同じような意味で、チャーチルの「信念」には、擦り切れるまで付き合わせても、その出自は頑なに匂わせる英国のクラシックがふさわしかった、


「男の服」のあり方を示せと云われれば、多分、そんなことだろう、それは、「ファッショナブル」とは次元の違う「スタイル」という話で、しかし誰かが云っているような「大げさ」なものでもない、

ただ、「大げさ」ではないが、「真実」を大切にするもので、それは、生涯の親友を探すのに似ている、
本当の友人は、人生のタフなときにはその暖かさが心に沁みる、思い切り愉快なときは喜びを分かち得えて、それは一人で愉しむのとは違う豊かさを教えてくれる、


服を仕立てるときは、生涯付きあってくれる、その親友の姿を思い浮かべれば良い、ただ、それだけのことだ、


それは、「消費」するのとは違う。















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copyright 2009 Ryuichi Hanakawa

by tailorrikughi | 2009-03-26 05:53 | ■Column(New)
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